大判例

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東京高等裁判所 平成10年(う)1952号 判決

被告人 鈴木総一郎

〔抄 録〕

以上みてきたところに関係証拠を加えて検討すると、宇田川警部らが匿名電話でもたらされた情報に基づき、覚せい剤の取引があるという本件現場に臨んで待機していたところ、右情報に合致する風体の井垣の乗ったタクシーが到着し、寄ってきた被告人との間で、やはり右情報に沿う覚せい剤の取引が行われているようにみえる状況が目撃されたこと、宇田川警部が被告人らに対し、警察手帳を示した上、「警察だ。」と告げたところ、被告人が逃走するような動作を示したので左腕を押さえ、勝俣警部補が右腕を押さえ、宇田川警部が「何を受け取ったんだ。」などと質問し、被告人を井垣から離すためにホテルの方へ約一〇メートル連れて行ったこと、池島警部補が、物をいじる動作をしていた井垣に対してその左腕を押さえ、「袋の中身は何だ。」などと質問をし、同警部補らが井垣の腕やベルトを掴んでいたことが認められる。そうすると、本件は、職務質問が重ねられることにより嫌疑が高まってゆくような事案ではなく、職務質問を開始しようとした時点において、既に現行犯に近い嫌疑が存在していたということができる。このような場合における職務質問は、有形力の行使との関係では、嫌疑を確認しようとする程度のもので足りると解される。また、有形力の行使については、犯罪の嫌疑の程度に応じて、ある程度の行動の規制が許され、かつそれが職務質問の前後にまたがることも許されると解すべきところ、本件においては、現行犯に近い嫌疑が存在していたのであるから、さきに認定した態様、程度の有形力の行使は、本件の具体的状況の下で相当と認められる範囲を超えていないと考えられる。本件の職務質問とそれに伴う有形力の行使に違法な点は認められない。

(佐藤文哉 川上拓一 波床昌則)

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